ベース弦について
ベースに限らず、弦は重要です。
安いから、楽器と同じブランドだから、皆が使っているからと安直に選んではいけません。
各パーツによる音色の違い- 弦でお話したように、弦が振動して音が出るのですから、
その弦の音がします。今回は ベース弦 の構造、材質、張替など話です。
弦の構造
弦は芯線の周りに細い線を巻き付けています。
芯線の周りに丸い金属を巻き付けている。
芯線の周りに平たい金属を巻き付けている。
ラウンド弦の表面を削って平らにしたもの。この作りで、フラット・ワウンドと呼んでいるメーカーもあります。
画像では芯線が1本ですが、複数だったり、円径でなかったりと、色々と工夫されています。
昔は、Fender社のフラット・ワウンド弦しか売っていませんでした。
しかも、1セット8,000円位しました。
友人のベースを弾いて弦を切ったりしたら、”弁償もの”でした。
ある日ある時、
ROTOSOUND の swing bass の音を聞いた時の衝撃は今でも忘れられません。
ラウンド・ワウンド弦の初体験でした。
しかも、Fender より安いんです!
ただ、当時のベース弾きににとっては、明るすぎて、サスティーンも良すぎて…
コントロールしにくかったので、皆ブリッジの手前にスポンジを詰めてました。
ミュート・ダンパー(注17)ですね。
(注17)ミュート・ダンパー:弦の減衰を早め、倍音を減らすために、ブリッジの辺りで弦に圧力を加えるウレタン状のもの。
ラウンド・ワウンドの良いところは、弾力があり、倍音を多く含んでいることです。
フラット・ワウンドより弾きやすいので、あっという間にエレクトリック・ベース界では
主流を占めるようになりました。
この時代辺りから、最初に書いたようにベースの音が、
” ビーン ” とか ” ガーン ” になって行ったわけです。
材質による音色の違い
- ニッケル・クローム:スタンダードな素材。弾力があり、反応が良く、劣化が遅い。
最もポピュラーと思う。(以下ニッケル) - ステンレス:イメージ通りニッケルよりは固く、高音域を多く含みシャープな印象。
錆に強い事から、ニッケルより長寿命と謳われているが、初期の短時間での音色の変化と、硬質なためにかニッケルより劣化を早く感じます。手触りが悪いが、各メーカー成分を変えたりして、努力している - コーテッド(樹脂などをコーディング):代表的なのが、黒いビニールをコーティングしてあるもの。長寿命を謳っている製品は、各メーカー独自の樹脂のようなものをコーティングしている。一皮被っているので、ニッケルやステンレスのようなシャープさはない
構造と材の組み合わせでの音色
- ニッケルのラウンド・ワウンド:弾力があり、倍音も多くパワー感がある。
最もポピュラー。 - ステンレスのラウンド・ワウンド:ニッケルより硬く、手触りが ” ざらつく ” 。高域を多く含み、低域にしまりがある。(指先が削れて指紋認証でエラーが出るらしい。)
- ステンレスのフラット・ワウンド:なぜか、フラット弦はステンレスが多い。硬く、高域が少ない。表面がつるつるなので、シフティング(ポジション移動)しやすそうだが、ラウンド弦の方がスムーズ。(指と触れている面積が多くなるの張り付く感じ。)良いところがなさそうみたいですが、この音が大好きなプレーヤーが多い。
また、フレットレスにラウンド弦を張ると指版の摩耗が早いので指板の温存のためフラット弦を張 っている。もしくは、コントラバス風の音質を求めて張ることも多い。 - ステンレスのハーフ・ラウンド:これもステンレスが多い。まさに、ラウンド・ワウンドとフラット・ワウンドの中間。良い所取りになるか、悪い所取りになるか?
楽器との相性で決まりそう。
僕はフレットレスに張っていますが、次回はどうするか試案中。
ゲージ(太さ)について
弦が高価だった頃は1本だけ替えたりしましたが、
現在は、弦ごとの音色のばらつきを防ぐために1セットごとに替えるのが普通です。
なので、セットで売っています。(バラ売りは少ない。)
一般的なセットのゲージ(単位はインチ)
.040、.060、.070、.095 |
.045、.065、.080、.100 |
.045、.065、.085、.105 |
.050、.070、.085、.105 |
5弦は.125、.130、,135が標準的 |
Light、Medium、Heavy…と各メーカー色々な名称で呼んでいますので、
必ず、この数字で確認してください。
もちろん、これより細い、太いセットもあります。
” .045~.100 ” と ” .045~.105 ” の2つが標準的で、人気があります。
多くのメーカーが色々なタイプの弦を発売しています。
手に感じる張力、弾力、感触、そして音色で一番ピンとくるものを探しましょう。
また、楽器によって張力にも個体差が出ますので、
楽器を替えた時など、以前のゲージが必ずベストとは限りません。
楽器を買う時に、張ってあるゲージを知っておくと、
張り替えるときの目安になるので、店員さんに確認してください。
張り替え時期
弦は張った瞬間から劣化していきます。
劣化する原因は幾つかあります。
- a:巻き線の隙間に汗や汚れが入っていき、振動し難くなります。
- b:芯線には張力が掛かていますから伸びていきます。
初めの数時間は特に伸びますが、その後、伸び率は少なくなり安定してきます。
しかし、少しずつ伸びます。そして、伸びなくなった頃には、芯線と(外側の)巻き線に緩みが出てきて振動し難くなってしまいます。
この状態になると弾力もなくなり、音程も悪くなってしまいます。 - c:フレットによって少しずつ巻き線が削れでしまい振動し難くなります。
触ったり、目視で分かるようだと、↑ の b の状態もとうに過ぎています。
b の状態になったら張り替えましょう。
つまり、”弦は伸びきったら交換”です。
新しい弦は 1曲弾けば音程が下がるので、毎曲チューニングして下さい。
可能ならば、曲中にもチューニングしましょう。
そのためにチューナーが出来たんです。
何時間弾いても音程が下がらなくなったら、もう寿命です。
僕らのライブを観に来た生徒さん達は、やたらチューニングしているのを見て驚きます。
よくギタリストのように弦を引っ張って伸ばして張っている方がいますが、
新品状態を無理やり1週間目のような状態にしているだけです。
ギタリスト達は、新品の弦だとチョーキングした瞬間に音程が下がってしまうので仕方なく伸ばしているのです。
チョーキングを多用しないベーシストは、やめるべきでしょう。
弦の張り方
以前に書いたように、1本ずつ替えるの正しいですが…
古い弦を外し、楽器のメンテナンス#2で書いたように掃除しましょう。
新しい弦をテールピースから通し、ペグのシャフトに 2~3回巻き付けられる長さで切りますが、必ず弦を折り曲げてから切ってください。
Fender系のシャフトが太いタイプ(Photo A)の時は8cm位、
シャフトが細いタイプ(Photo B)は5cm位、ペグより長い所で折り曲げて、2~2.5cm程残してニッパーなどで切ります。
スパっと切って下さい。グリグリと切ると巻き線が緩んでしまいます。
この弦をシャフトのスリット中央の穴に差し込み折れ目を引っ掛けて、上から下へ巻き取っていきます。(photo B 参照)
この時、片手で弦に軽く張力を掛けて、巻き取られる弦同士に隙間が出来ないようにしましょう。
シャフトにくびれがあるものは、巻き取りやすいと思います。
巻き方にむらがあったり、巻き過ぎはチューニングが狂う原因になります。
2~3回巻きが定番となっています。
意外と知られていないのが、「弦を捻じれないように張らなければならない。」と云うこと。
1、2弦は、まあ、大丈夫でしょうが、3、4弦はボールエンド(注18)がテールピースに引っかかってしまい、捻じれてしまうことがあります。
(注18)ボールエンド:弦の端についている丸いリング状の金属。テールピースに引掛ける部分。
ヘッドレス・ベース(注19)用に両端に付いているものもある。
(注19)ヘッドレス・ベース:ヘッドはなくテールピースと一体型のペグが付いている。
ボールエンドに張力が掛かる前(Photo C)に、ナットの所で軽く弦を押さえてブリッジに向かって軽くしごいて捻じれを取ります。(Photo D, E)
1度巻き取り、巻き癖をつけてから、改めて弦を緩め捻じれを取り張りなおす方法もあります。
チューニングをしてから以下のチェック~調整をしましょう。
- ネック
- 弦高
- オクターブ・ピッチ
(楽器のメンテナンス#4--楽器の調整 参照)
トラスロッドを回した時は、弦は緩めずに、2、3日ようすを見ましょう。弦とのバランスが取れるまで時間が掛かる時もあります。
「…安直に選んではいけません。」と簡単に言ってしまってますが、
現在は嬉しいことに、多くのメーカーの多種の弦が簡単に手に入ります。
優等生的に、2か月で弦を張り替えても、1年で 6セットしか試せません。
そこで、僕、同業者、生徒さんの使っている弦の印象をなどを書いておきますので、
参考にしてください。(あくまで個人の感想です。)
印象に残っている弦
ROTOSOUND が圧倒的だった時代から、現在では、Ernie Ball 、D’Addario の2社が人気があるようですが、ROTOSOUND も負けてはいません。
この3社の製品は安定していて、低コストが 1番の理由と思います。
機械巻の技術を確立したんだと思われます。
昔は手巻きが主流で、数セットに 1本位は不良品がありました。
楽器屋さんへ返品に行くなんて普通で、楽器屋さんも「あっ、そう。」と事も無げに交換してくれていました。
この何十年、機械巻が当たり前になってからは、返品した事がありませんでした。
手巻きを謳った数社の高級弦も試したことがありますが、” 劣化が早い ” と感じました。
僕は基本、新品の弦を使います。
レコーディングでは、4時間、ライブでは1ステージ(1日)で弦を交換します。
一般的なショウ(コンサート)は2時間です。
リハーサルも入れて4時間余り持てば充分なので、高級弦メーカーの考えは間違ってはいません。
しかし、恵まれた仕事ばかりではありませんので、劣化の二段階目(張り替え時期 b)が長い弦が良いと思います。
(レコーディングではバレますが、ライブでは全然OKです。)
そういった訳で、まず上記3社の弦を試してみるのがよろしいかと思います。
使った事がある弦
ROTOSOUND : 倍音が多く、弾力があり弾きやすい。しっかりとした中域がある。 | |
Ernie Ball : ROTOより硬いかなぁ、強く弾きたい人向け。しっかりとした中域がある。 劣化が遅い気もします。 | |
D’Addario* : 倍音が多く、↑2社より柔らかく、フラットな特性。ゲージ、タイプの種類が多い。 | |
Ken Smith* : タイト、弦の張力が強く、硬く感じる。他社より細いゲージで良いと思われる。 まとまった音色で品が良い。 | |
R Cocco : Ken Smith と同じような感覚、落ち着いた品が良い音。 | |
DR : 倍音が多く、適度な弾力。フラットな特性。選択肢が少ない。 | |
Dean Markley : なぜか高級感あり。落ち着いた品が良い音。 |
上記以外のメーカーに関しては、僕には合わないものや、弾いたことがないメーカーもあります。
また、各社の気になるモデルだけしか弾いてないので、ブランド名で評価するべきではないとも思いますが、気に入らなかったメーカーの他のモデルを試す気にはならないのも本音です。
残念なことに、使いたい国産のメーカーがありません。
やはり、” 歴史と市場の差 ” なのかと悲しくなります。
ヴォーカリストは生まれ持った声しかありませんが、僕らは選べます。
求める音色は楽器のキャラクター、そのセッティング、弦、ケーブル、そして演奏者自身と幾つのも要素が係りあって決まります。
むかし、音響さんと話していた時に「一番音が変わるのは、入口と出口を替えた時。」と言われたことがあります。
僕らの場合、出口はスピーカー。
入口は弦です!
弦を選ぶことは、求める音の第一歩を決めることです。
” 求める音 ” とは何なんでしょうか?
初めは、誰かの演奏を聞いてそのアーティストを好きになり、彼(彼女)の真似をしますが、音楽を学んでいくうちに、その彼(彼女)とは、自分は違う存在だと気が付きます。
その頃には「こんな感じの音が出したい。」と思うようになるはずです。
その音(音色、音質…)は僕ら一人一人の中にあるものなので、自分自身にしか分かりません。
だから、楽器編 #01の冒頭で書いたように、楽器を替えてみたり、エフェクター等で音色を変えてみたり…と、求める音に近づける為に奮闘します。
弦にも、もっと注目しましょう!