ベースのメンテナンス #1 ( 楽器の調整 )
買ったベースをそのまま使っている方が多いのではないでしょうか?
前オーナーがマメな人で、何時も丁寧に調整してた中古楽器にでも当たらないと、
買ったままで良い状態の楽器はまずありません。
僕は新しい楽器を手に入れたときには、
いつも使っている弦と共にリペアに出します。
いつもの僕の好きなセッティングにしてもらうためです。
買ってきた楽器はそのままでは使いません。
楽器の調整(セッティング)
ネック
ベースを購入する時に楽器編 #03でチェックすべきと書いたように、
ネックは動きます。
弦方向に曲がってくる状態を ” 順ぞり ” と言い、
その反対、ネック(裏)側の反ってくる状態を ” 逆ぞり ” と言います。
普通は、弦の張力を受けているので、順ぞりになってきます。
寒いところに長期間、置いておくと逆ぞりになることもあります。
ネックの反りのチェック方法
簡易的なのが、↓ のように、1フレットと最終フレット指で押さえて
その間の弦を弾きます

小さく鳴れば軽く順ぞり。しっかり鳴れば大きく順ぞり、鳴らなければ逆ぞりだと分かります。
” 軽く順ぞり ” が理想とされていますが、僕はもう少し攻めて ” ほぼ真っすぐ ” に調整します。
どちらの反り方も素直に反っていれば、トラスロッドで調整可能です。
↓ のように波打ってしまったり、捻じれてしまったネックは、
フレットを抜いて、指板を平らに削り、新たにフレットを打ち直します。
そのような訳で、このような状態になってしまった楽器の購入は諦めましょう。

目視で見る方法は、ヘッド側、またはブリッジ側からフレットの光っている線を見ます。
弦は真っすぐなので、これをガイドにしてフレットの光跡をみます。
多少、指板が僅かに歪んでいてもフレットの高さで水平が出ていれば、妥協できます。
1弦側と4絃側で反り方が違っているネックは捻じれています。
両側を見ましょう。
調整方法
楽器編 #03 で書いたようにトラスロッドを回して調整します。
メーカーによってトラスロッド・ナット(注12)の形は違います。
買った時に保証書などと共に入っていますので、入っていたレンチがそれです。
(注12)トラスロッド・ナット:トラスロッドを引っ張るためのナット。メーカーによって形が違います。また、ヘッドについているタイプとネックのボディ側にあるものとがあります。

ネックの端にある六角タイプのもの
先ずは、弦をネックに張力が掛からないまで緩めます。
Photo ↑ 六角レンチをここ(トラスロッド・ナット)に差し込み回します。
順ぞりの時は時計回り、
逆ぞりの時は反時計回りに回します。(稀に逆さの楽器があります。)
何度回すとどれくらいネックが動くかはやってみなければ分からないので、
少し回して様子を見ましょう。
弦を緩めているのでネックには張力がかかっていないので、少し逆ぞりになる状態に調整します。
チューニングした時に、若干順ぞりが理想です。
ネックは温度、湿度で動きます。
季節の変わり目、弦を張り替えたときには必ずチェックしましょう。
” 少し反ったら調整 ”を繰り返して4,5年経つと、落ち着いてきます。
大きく反ったネックはトラスロッドの調整では真っすぐにならないことがあります。
ナット
あまり話題にされない。または、ある程度上手になってからの話。
みたいな扱いですが、初心者にこそ重要なセッティングです。
弦はナットとブリッジで釣られています。
ブリッジにはネジが付いていて、高さが調整できまが、
ナットはネジがないので調整できないのです。
↑ ” 順ぞりのネック ” の画像見てもらったので分かると思いますが、
画像の左側がナット、右側がブリッジです。
ブリッジをいくら下げても、ナットの周辺のポジションでは弦高は下がりませんね。

2フレットを押さえる
ここの隙間は 0,1~0,3 ㎜位。
1 mmもある楽器は弾けません。

目視なら、1フレットよりわずかに高い程度。
この楽器の場合は、画像 ” ナットの高さ ” のように 2Fを押さえた状態では ” ポストイット ” 2枚は入りません。
理論上ナットは 0フレットなので、1Fと同じ高さで良いはずですが、
高級楽器でない限り、メーカーはマージンを取って高めにセットして出荷します。
( 店頭に並んでいる間にネックが逆ぞりしたら、鳴らなくなってしまうからです。)
調整方法
画像のようにチェックして、高かったらリペアマンに削ってもらいます。
” ナットを落とす ” と言います。
専用のヤスリも売ってたりしますが、やり直しがきかない上、
摩擦、角度と微妙なので本職さんにお願いした方が良いと思います。
買う前なら店員さんに交渉すれば、無料でやってもらえる可能性は大です。
ナット調整をするならその他の調整もやってくれます。
ただし、” メーカー保証 ” がなくなると言われると思いますが、
メーカー保証で楽器を修理した話は1度も聞いたことがありません。
気にしなくて良いと思います。
「工場に戻すから、1ヶ月程掛かる。」とか言ってくる店もあると思います。
この時は諦めて楽器代を値切り、自分でリペア料金払いましょう。( 数千円です。)
ナットが調整されていれば、よく使うポジションが楽になります。
構造上、ナットも消耗品です。
1Fはちゃんと鳴るのに、開放弦が”ビビる”(注13)ときは、ナットが消耗したと思えます。
僕のようにギリギリまで落としてしまうと、すぐに交換しなければなりません。
ご注意ください。
(注13)ビビる:弦がフレットに当たり”ビ~ン”と嫌な音がする。ビビり(名詞)
参考:ナットに張り付くように ” 0フレット ” がある楽器もあります。
フレット
よく使う場所が削れて低くなってしまい、その場所だけビビるようになります。
こうなったら、リペアに出しましょう。
低くなったフレットに合わせて他のフレットを削ります。
” フレットのすり合わせ ” といいます。
一般的なフレットですと、2回位は、すり合わせが出来ます。
これ以上削れなくなった時に、打ち直しをします。
この時には、指板修正(指板も平らにする。)もしますので、
素晴らしいコンディションの楽器になって帰ってきます。
参考
ヴィンテージ:古い楽器が好まれるのは、このように何度も調整を繰り返されて、弾きやすくなり、古い木ならではの音色になり、また、その手を掛けるだけの価値があるものをその個体が持っているからなのです。
最近はオリジナルのものの方が高価な値が付いていますが、楽器は弾かれてこそ価値があると思います。
ブリッジ
2つの調整があります。
弦高の調整
弦を乗せているサドルは2本のイモネジで支えられているので、
これで高さの調整をします。(このレンチもついてきます。)
12フレットで 1.5~2,5㎜ 位が標準だと思います。
ナットの調整同様、弦下部とフレット上部の隙間を測ります。

水平に黒いビス(オクターブ・ピッチ調整用)が突き抜けている
オクターブピッチの調整
弦長の 1/2 のポイントが 12Fの真上で音程が合うように作られていますので、
弦の太さ、弦高でこのポイントがずれてしまうと音程が狂います。
サドルには弦に対して水平方向のビスが付いています。
このビスを回してサドルを水平方向に動かし、
12Fの真上がぴったり弦長の 1/2 のポイントが来るようにします。
開放弦でチューニングをします。
12Fのハーモニクス(注14)と12Fの実音(注15)を比べます。(チューナー使えば楽勝です。)
- ハーモニクスが実音より高いとき:サドルをネック側に移動
- ハーモニクスが実音より低いとき:サドルをエンドピン側に移動

図右の ” ↓ ” がブリッジ側にずれているので、12Fの真上にする為サドルをネック側にずらす
12Fのハーモニクスと12Fの実音が同じ高さになればOKです。
サドルを動かすときには、少し弦を緩めてください。
(注14)ハーモニクス:弦長の整数分の1のポイントを軽く指で触れて、弾くと出る高い音。
12、9、7、5、4Fの真上で出ます。(倍音のこと)
(注15)実音:フレットを抑えて出る音。
フレットレス・ベースの各調整
基本フレットテッド(フレット付き)と同じです。
フレットがないので、ある意味もっと大胆に調整できます。
ネック
指板面がフレットの上端と同じなので、同様に調整します。
フレットのように光らないので見にくいと思いますので、↑ ” ネックの反りのチェック方法 ” の簡易的な方法を短い間隔でやると良いと思います。
指板面なので僅かに波打っていても大丈夫ですが、あるポジションだけビビって気になるなら、指板修正に出しましょう。フレット関連の作業がないので意外と安いです。
ナット
フレットがあれば、0フレットなのですから指板と同じ高さ、または僅かに高くセットします。
ブリッジ
フレット付きと同じです。12F辺りの指板と弦の下部の隙間が 1.5~2,5㎜ 位が標準だと思いますが、
もっと低くセットしてもフレットがないのでビビリが気にならないと思います。
または、敢えてビビり音が聞こえるように低くセットするのもありです。(バズと言う)
いわゆる Jaco サウンドです。
反対に、コントラバス風なサウンドにするときは、フラット・ワウンド弦やコーティング弦(後述:弦の種類–材質による音色の違い 参照)を弦高を高めに張ると ” イイ感じ ” になります。
オクターブピッチの調整
本来は、フレットがないので必要ありません。(自分でポジションを覚えるので)
しかし、各弦でズレが大きいと気持ち悪いので、自分で12Fの場所を決めて ↑ と同様に調整します。
リペアの勧め
ナットやフレットのように自分で調整できないパーツ以外は
可能な限り自分でやりましょう。(ナット、フレットも自分で調整している方もいます。)
僕らにとって楽器は、板前さんの包丁です。
自分の道具を一番上手に扱えるのは自分であるべきではないでしょうか?
初めて、トラスロッドを回す時は勇気がいると思いますが、
やっているうちに加減が分かってきます。
また、数年に一度はリペアに出しましょう。
さすがに本職ですよ。
リペアから帰ってきた楽器は良く鳴ります。
増々、自分の楽器が好きになってきます。
また、自分で調整するのが怖い方はもう少し短いスパンでリペアに出しましょう。
目の前でやり方を実践してくれたりするリペアマンもいます。
(僕らに負けず劣らず、楽器が好きな人達です。)
リペアマンとお話すると、自分の癖だったり意外なことにも気付いたりもします。
次回はもう少し細々としたお話の予定です。